ウエディングフォトグラファーになろうと決心したはいいものの、まったく何も道筋が見えず、正直、鬱な気分に陥っていたときのこと。
偶然、夜中にNHKで視力をほとんど失ったイギリスの カメラマンの話をやっていた…。正直、もう自分が駄目なんじゃないか、生きる価値なんてないんじゃないかとどん底だったところに、とても心に響いた番組だった。放映時間にして20分だったんだけど、心を強く揺さぶるものがあった。自分は年齢を理由にしたり、いろいろ言い訳しているだけじゃないかと気づかされた。
インテリア会社を経営しながら趣味のカメラに興じていたバッキンガムシャーのケン・キーンさんはあるとき鼻の奥の腫瘍をとる手術を受け、その際に視神経を傷つけられて右目は完全に失明、左目もかすかに光を感じられる程度の視力にまで落ちてしまう。当然、絶望した。
しかし、ケンさんの師匠は彼に写真を続けて欲しいと願い、「もっと他の才能を伸ばすべきだ」とアドバイスをおくる。同じく老齢の写真仲間も彼と一緒に相変わらず撮影旅行に出かけたり、励まし続けた。
ケンさんは機材に工夫を凝らし、手持ちのライトを使って構図を確認するなど、仲間と撮影しているときでも一人ですべてをこなす。そしてテーマである教会を大判カメラで地道に撮り続け、毎年仲間と個展を開催する。今では経営していた会社は他人に譲り、毎日カメラに情熱を注ぎながら生きている。
「視力を失ったからといって、創造力を失ったわけではない」
「目に見えるものを写すのではなく、心の目でみえるものを焼き付ける」
今では同じ視覚障害者の方向けにカメラ撮影のワークショップを開催していたりする。ケンさんの師匠や仲間たちは言う。
「彼は視力を失ってから、さらに写真が上達した」
視力を失って10年、なお熱きカメラへの情熱
逆光の中に黒い影を映すセントポール寺院。寒風に廃墟となった姿をさらす修道院。王立写真家協会の昨年の写真集にケン・キーンさんの作品が収められています。実はケンさんは目の不自由な写真家。 熱心なアマチュア・カメラマンだったケンさんが、病がもとで視力を失ったのは10年前のことです。しかし、カメラを抱えて歴史建造物を巡る喜びを捨てよう とはしませんでした。毎週、愛用の大型カメラを抱えて友人とともに撮影に出かけます。風の流れや音で建物の大きさや光の指す方向を判断し、頭の中で構図を 描くのだといいます。経営していた建築会社は他人に譲り、今は撮影に専念しています。また、障害者写真家協会のメンバーとして、障害を持った人たちへの写真指導のワークショップを開いています。「自己満足をするために写真を撮っているのではありません。楽しみをあきらめないことを他の障害者に伝えるためカメラを離さないのです」というケンさん。その情熱を追います。
こだわりライフ ヨーロッパ 「かすかな光を頼りにシャッターをきる~イギリス~」